Toshio Kamitani Design

The Art Spirit by Robert Henri 野中邦子訳[図書刊行社]

2017/03/06

☆☆☆☆★(星4つ)

 

ロバート・ヘンライという名前は

知らなかったけど

書店の美術書コーナーでは

この赤い本はよく見かけていたけど

やっとというか

この本を手にしてしまった

率直に言って

とてもいい本だと思った

図録はほとんど無いので

若干読破するのに苦労はしたけど

自身も画家でありながら

美術学校の先生でもあったヘンライの

さながら授業のような語り口で

リアルな空気を感じれて面白い

一言で言えば

「周りに惑わされる事無く真面目に絵を描き続ける事が人生である」

という事だと感じた

 

お金や賞や外的評価を目的にはしないこと

先生の言うことに従わないこと(この場合の先生はヘンライでなくて)

描く対象の表面を描くのではなく本質を捉えること


今ある多くの芸術作品は

その時代に評価されたものはほとんどなく

むしろ無視され続けた作品が多いからだ

 

具象画家であったヘンライは

その時代にそれなりの評価は得ていたらしい

しかしとある展覧会に出品された

マルセル・デュシャンの「階段を下りる裸体」で

それまでのアメリカの美術の評価は

まったく変わってしまったらしい

そして具象というジャンルはしばらく抹殺されたという

 

もう一つ面白い話があったのはセザンヌの事

ヘンライは

ベラスケス レンブラント エルグレコ ティッツアーノ セザンヌ達の作品を

こよなく愛して目指すべき方向だと何度も記述している

セザンヌは彼の生きた当時

「セザンヌを精神病院に入れてしまえ!」

と言った人がいたらしい

おそらくその時代のサロンでの権威者だろう

セザンヌはそんなサロンでは

決して入選することはなかった

でも今の評価はどうだろう

その権威者の作品はおそらく残ってはいないかもしれない

凄いヘンライの言葉を見つけた

「セザンヌは自身がやろうとした事が彼の範疇を越えてしまったのだ」

これには震えた

 

Toshio Kamitani