Toshio Kamitani Design

ショーケースの夢

2021/02/27

神谷デザインに東京事務所があった頃
駅から事務所に向かう途中
ビルの前にちょっと古めかしいショーケースがあった
そこには新刊書なのか本が所狭しと並んでいた
本が好きなので出張時や
新しい地にいくとつい書店に立ち寄り
本を物色してしまう癖があるので
そのショーケースを見ることが
いつの間にか習慣となっていた

ある日そのショーケースに
僕が持っている英語の参考書があった
「あれ!ここがあの出版社なんか?」と
普段は見てなかったビルの方に目を向けると
2階の窓にその出版社の名前があった
「事務所近くにあったのか!なんか嬉しいな!」
そんな気持ちでその後も
そのショーケースを見る習慣は続いた

英語の参考書はたくさん買いました
なかなか継続しての勉強は難しいものがあった中
この出版社が出す本はどれもユニークで
かつ実践的で親しみが持てて
結局はここのが一番!と
英語を勉強したい人がいたら真っ先にオススメしていた
そしていつしか
「この出版社の書籍のデザインをしてみたいな!」と
いちファンだった僕が
デザイナー目線で出版物を見るようになった
でもどれも良くできた書籍で
「僕が出る幕はないな!」とも思っていた

ある日そのショーケースに小さく
「本社でも書籍を販売しています」と
書いてあるのが目についた
ちょっと欲しい本があったので
思いきって出版社のドアをノックした
キレイでその出版社の書籍のようなフレンドリーな
そんなオフィスだった
「すみません 御社の本を購入したいのですが」
と英語以外にも歴史や地理 化学 科学など
教育全般の書籍を出しているのを知り
英語関係ではない本を購入した
ここで購入すると1割引き!というおまけも付いていた
その後もちょくちょく書店ではなく
この出版社で購入する機会が増えた

本が好きなので自費出版をしたり
展覧会があれば簡単なブックレットを作ったりしていた
また趣味の釣り関係から神田にある出版社から
少しづつ書籍のデザインの依頼がくるようになっていた
パッケージデザインが業務のほとんどを占めていた会社だったけど
いつしかそれなりのエディトリアルデザインの実績が
神谷デザインにできつつあった

ある時ダメ元で
仕事としてその出版社のドアをノックしようと思い立った
しばらくして返事がありその出版社へ伺う機会を得た
お客としてノックしたドアとは違った緊張感でノックした
女性の編集者2名の方に
これまでの実績と自分たちの会社のことを僕なりに伝えた
自費出版で作ったイラストレーションを使った本に
特に興味を持っていただいた
「御社にあったテーマがあればお願いします」との声をもらった
帰りにいつものショーケースを見て
「ここに僕たちがデザインした書籍を並べたいな!」と強く思った

訪問してから1ヶ月くらい経ってから
1通のメールが届いた
お会いした編集者ではない別の方からで
それは今企画している書籍のデザインの依頼の内容だった
飛び上がる喜びを噛み締めながらスタッフに
「新しい出版社からの依頼があったのでよろしく!」と伝えた
初めの仕事は歴史関係の書籍だった
その内容がまた面白くて
ワクワクしながらスタッフとデザインをつめていった
そして数ヶ月後に仕上がった書籍が届いた
発売の知らせを聞いてすぐさま自宅近くの大型書店に出向いた
歴史書のコーナーに向かうと平置きでそれはあった
グッとくる感動があってスタッフにも感謝した

先日新規の打ち合わせにコロナ禍だけれども
面と向かっての打ち合わせが必要と判断し
トンボ帰りの出張で出版社を訪問した
久しぶりだがいつものように
(神社の鳥居をくぐるかのような気持ちで)
ショーケースを覗いた
そこに神谷デザインでデザインした最新刊があった
担当の方から書店でも引き合いが良くて評判と聞いていた書籍だ
「うわ!めちゃ嬉しい!」
1つの夢が叶ったような瞬間だった

 Kamitani Toshio